さぼり-1-

塾、サボろっか?




僕は耳を疑った
確かに村上は勉強はそんなに得意じゃない
でも、そこまで勉強嫌いでもないし
大体、こいつは塾に勉強じゃなく
おしゃべりに行ってるような奴で
塾に行くのを楽しみにすらしているような奴なのに
いきなりコイツ、何、言ってんだ?
そう思って右側を見る
僕がそっちを見ているのを無視するかのように
まっすぐ前を見ながらもう一度言う




塾、サボろ



口調が疑問形でなくなった
僕が断るだなんて
村上はこれっぽっちも思っちゃいない
確かにいつもなら村上のワガママは出来る限り聞いてきた
でも、今日はそういうわけにはいかない
今日は苦手な単元の復習の授業の回なのだ
他の日、例えば先週みたいに
全部わかりきってるような授業内容の日ならまだしも
今日はそういうわけにはいかないのだ



僕が無言の抵抗を行っていると
ようやく説得の必要を感じたのか
村上は僕の方を見て立ち止まる



サボるの?サボらないの?




強い口調だ
僕が自分の強い口調に弱いのを重々承知の上で
こんな風に言う
本当に性質の悪い奴だと思う
でも、そういつもいつも同じ手でやられる訳にはいかない
僕は初めて彼女の強い口調に対して反論した
理路整然と今日の授業の重要性を説く
びっくり、とまではいかないにしても
意外そうな顔をしながらも
僕の反論を大人しく聞く彼女
全て話し終わり、納得してくれたかな?
そう思って彼女を見る




あのね、今日はど〜〜〜してもサボりたいの!譲って?




この女!
僕の説得なんて何一つ聞いてやがらなかった!
お前、さっきまでの相槌は何だったんだ!?
僕もここで譲るわけにはいかないわけで
村上の方を向いて反論しようとした
そのとき…




そりゃ身長差故に
所謂『上目遣い』になるのは仕方ない
そりゃ夏だから
ちょっと胸元の開いた服を着るのも仕方ない
でも…



村上のあの眼で上目遣いで全力で訴えるような目付きで
眼のやり場に困って視線を落としたら
胸元の陰影が見えてしまって
それでもなお、何か反論出来る人間がこの世にいるんだろうか?
いや、いるんだろうけど
少なくとも僕はそんな人間ではないようで…



そんなわけで僕は塾をサボった
村上の言うがままにサボってしまった…















最近、毎週日曜は薬剤師国家試験対策の予備校に通ってるんです
8月27日、ベリコン&サーキット翌日で
みんなが関西に遊びに来ていても
僕は予備校に行きました
昨日の9月3日、前の晩からシルクさんが遊びに来ていて
時間を持て余していても
僕は予備校をサボりませんでした
大体、8月27日の授業は僕の得意な有機化学
9月3日の授業は現在の職業である生化学で
サボっても何一つ困ることはないんです、本当は
それに対して来週の9月10日
この日は僕の苦手な
この教科の所為で毎年落ちてると言っても過言じゃない薬理学
休めるはずがないんです
ないんですがね…











めぐのあの眼から逃げられないんです…











友達の誘惑には勝ちました
でも…めぐのあの眼には…
えぇ、友情より恋愛を取りますよ
国家試験より恋愛を取りますよ
もうね…どうにでもして…
それが正直な今の思いです…