むしゃくしゃしてやった

帰ると部屋の電気は全部消えていて
でも、靴があったことを思うと既に家には帰ってきてるようで
だから僕は電気もつけずにパジャマに着替え
寝室に直行した





部屋に入ると雅ちゃんがベッドの右側を空けて潜り込んでいた
何も言わずにベッドの右に潜り込む





「…お帰り」
「…ただいま」
「…遅かったね」
「…そっちが早かったんだよ」





そんなどうでもいい会話の後
延々と沈黙が続く
僕は今日、聞いた話の真意を聞きたくて
でも、どう聞けばいいのか分からなくて
帰り道の間、ずっとそればかり考えていて
でも、答えが出なくて
ベッドに入って雅ちゃんを目の前にしても
やっぱり上手い言葉が見つからずに
そして永遠に続くのではないか?
そんなことを思ってしまうような沈黙のなか
雅ちゃんが話し出した





「…あのね」
「あるところに女の子がいたの
 で、その子を好きになった人がいて
 で、その子も何だかんだ言って
 その人のことが好きになったのね…」





「…でもね、その人、ちょっと困った人で
 いつもいつもその女の子と違う人も好きになっちゃって
 でも、いつもいつもフラれちゃって
 で、またその子の元に戻ってくるの…」





「…でね、その子も困ったことに
 その人が戻ってくるたびに何か嬉しくって
 で、いつもいつも許しちゃうの
 で、その人にもっと好きになってもらおうと頑張っちゃうの…」





「…そんなある日の事
 また、いつものようにその人、どっか行っちゃって
 またぁ?懲りない奴だな〜
 な〜んて思ってたんだけど
 ま、今度はなかなか帰ってこなくって
 あれれ?これは…とか思っちゃってた、その矢先
 その人、また懲りずに帰ってきたの
 今度はいきなりいなくなっちゃった、とか言って…」





「で、いつものように元の鞘に納まった、と思ってたんだけど
 でもね…でも…
 実は帰ってきてなかったの、その人
 いや、別にお化けとかそんなんじゃなくって
 いつものように帰ってきて
 いつものように暮らしていて
 で、やっぱり他の子に走っちゃおうかな〜
 なんて素振りを見せるんだけど
 けど、何か違ったの…何かがおかしかったの…」





「他の子と逢ってたんだな〜とか思って出掛けて帰ってきたとき
 前までなら何かそわそわとかしたり
 妙にテンションが高かったりして
 あ、これはまた…とか思ったんだけど
 何か虚ろな感じで帰ってきたり
 うち…じゃなくって、その子と逢った日だって
 楽しそうなフリを一生懸命しているような感じがしたり…
 やけに昔のDVDとか昔の曲ばっかり聴いたり…」





「何かね…何処も見てない、っていうか…
 後ろばっかり見てる、みたいな感じで…」
「…」





「でね、その子ね、遂にシビレ切らしちゃったの
 その子ね…今まで…ずっと断ってきた
 イヤでイヤで仕方ない仕事があったんだけどね
 もうどうにでもなっちゃえ!
 どうでもいいやっ!!!!
 って感じで自棄になっちゃって
 その仕事…引き受けちゃったの…」
「…雅ちゃん…」





ぐす…ぐす…




「…泣いてるの?」
「…ゴメン…そんなに雅ちゃんのこと…
 …追い詰めてたなんて…知らなくって…」
「…」
「…僕が…後ろしか見なくて
 過去だけに幸せを見出せなくなって…
 その所為で雅ちゃんにそんな辛い思いさせて…」
「…」
「…ホント…ゴメン…」
「…別に…別にね…
 謝って欲しいんじゃないの…
 …タダね…タダ…
 …ねえ…今回の事…どう思った?」
「…えーっとね…
 それが…自分でもよく分かんないんだ…
 嬉しいとか悲しいとかそんな感情じゃなくって…
 何て言うか…怖いって言うか…心配って言うか…
 自分でもよく分かんない感情が押し寄せてきて
 こう締め付けられるっていうか…
 うん…本当に上手く言えなくて申し訳ないんだけど…」





「…ねえ」
「…うん?」
「あのさ…それって…えーっと…」
「…私のことにまだまだ興味がある、って思っていいのかな?」
「うん、それは確実に…正直、自分でもビックリするくらい…
 何か…冷静になれなくって
 自分の考えが全然纏まらなくて…
 どんなに必死に頭を働かせても前に進める気がしなくって…」
「…なら…いいよ」
「…えっ?」
「なら、許す、って言ってんの!」
「…」
「ねっ、ほらっ!寝よ!!」
「…うん」












「MIYABI〜夏焼 雅 写真集」
遂に発売決定です
いやね、そりゃ愛理ちゃんが決定した時点で
予感はあったんです
覚悟は出来ていました
そう、胸は写真集を出す条件には入っていない、と分かったときから





でもね、愛理ちゃんは、ほら、胸がないだけで
ちゃんとくびれもあるし
思春期前のあの細さを、あの可愛さを保存したい
そう思うのは仕方ないかな、と
それに引き換え雅ちゃんは単に胸がないだけでなく
これ以上ない面白体型をしているわけで
そりゃ写真集は有り得ないわ
そう思いたかったんです
出るなら人気の上でも桃子が先だろ?
そう思いたかったんです





けどね、冷静に考えれば
やはり静止画の美しさでは
最強は夏焼さんなわけで
それを放っておくはずがなく
順番からし雅ちゃんなわけで
でも、そんな冷静な判断をしたくない自分がいたわけで…





でね、いざ、このニュースに直面したとき
自分が自分でも分かるくらい狼狽しているんですよね
そう、お前等、よく見ておけ
これが世界最高の美少女、夏焼雅だっ!!!!
とか言って本屋にある写真集をあるだけ買い占めて
親戚縁者に配り歩くわけでもなければ
お前等、見るなっ!
絶対、見るな!
ニーとかした奴、死ね
氏ね、じゃなくって死ね!!!
とか言って本屋にある写真集をあるだけ買い占めて
世間の目に触れないようにするわけでもなく
嬉しいとか悲しい、という感情より
狼狽や心配と言った感情に支配され
自分でも訳がわかんなくなってきて…





だって、あの雅ちゃんですよ?
BLTのグラビアすらエッチだあ〜って赤面する雅ちゃんですよ?
そんなシャイで真面目な雅ちゃん
あんな面白体型で写真集撮影に挑むんですよ?
これが落ち着けるか?って話ですよ





でね、フッと思ったんですよ
あれ?僕、なんでこんなに動揺しているんだ?って
だって、僕はもう先は見ない
未来には何もない
過去にのみ幸福がある
そう思って生きていこう
そう思ったんです
いや、やっとそれに気付いて
で、その自分の思いに対し素直に生きていこう
そう思ったんです
だからね、別に雅ちゃんが写真集どころか
ヌードになろうとAVに出ようと
そんなの関係なかったはずだったんです




でもね…ただ…写真集が出るだけで…もう…




なんでかなーなんでだろうなあ…
なんでそんな事を思っちゃうんだろう
やっぱり雅ちゃんのこと…好きなんだろうなあ
大切なんだろうなあ…
そんな事を思ってるうちに
また、別の方向から物事を考えてしまったのです







…ひょっとして…雅ちゃんは…
雅ちゃんは単に僕のことを試したくて
こんな発表をしたんじゃないのかな?って
もしこれで僕が
ミーヤニーだみゃー
とか言ってたら…それは今度こそダメだったんじゃないかな?
若しくは夏焼とかペタポコに水着とか
角川は…覚せい剤が脳に回りすぎだろう…
とか思うんだったら
それはそれでダメなんだろうなあ…
そんな風に思えてきて
で、そんな中、僕は僕で最高の答えを示したわけで
やっぱり何だかんだ言って
雅ちゃんは僕の事が有り得ないくらい大好きなんだなあ
そう思った次第であります





嗚呼…雅ちゃん雅ちゃん